アルテミシア
女が男と同じように自由に芸術でも学問でも評価されるようになったのって、せいぜいがここ数十年のことでしょう。
美術史を思い出しても女流画家はいったいいつの時代から出現したのか・・・
美術史に登場する最初の女流画家と言われるのが17世紀初頭のアルテミシアです。
この時代、女が男の裸を描くのは教皇が禁じていたんですね。
ところがアルテミシアは描きたくてしょうがないの。
人間の肉体がどうなってるのか、骨、筋肉・・・正しいデッサンのためには解剖学的な観察もしないと。
花嫁修業のつもりで親に入れられていた修道院を出されたのは、アルテミシアが夜な夜な部屋で、自分の体を陰部まで鏡に映し、観察し、デッサンしてたのが見つかったから。
で、アルテミシアは有名画家であった父のもとで働き始めるのね。
男の弟子たちに混じって絵を描く。
ところが、裸の男をモデルにするときはアルテミシアだけはカーテンのむこうに追い出されるの。
追い出されたアルテミシアはカーテン越しに映る男の裸体のシルエットをなぞって描こうとするんだわ。
そんな彼女がある日、戸外で絵を描いている気鋭の画家テッシを見かける。
当時は絵は屋内で描くものと思われていたからこれはすごいことなのね。
より広い世界を見ようとしているテッシにアルテミシアはひかれるの
彼に男の全裸を描いた絵を持っていって見せ、弟子にしてくれと頼む。
が、相手にしてくれない。
父はその頃、教皇に愛されているテッシの才能に嫉妬しつつも、仕事のためにテッシを無視できなくなっているのね。
父はそんな計算もあり、アルテミシアを弟子にしてやってくれないかとテッシに頼むのね。
父の口添えのおかげで、テッシのもとに通うことになるアルテミシア。
やがてひかれあうようになるテッシとアルテミシア。
著名な画家のテッシが、無名の小娘アルテミシアの絵のモデルになるんですよ。
その場面、すごく好き~。才能と才能がひかれあい、官能が芸術へ昇華しようとする一瞬でしょう。ぞくっとするね。
半裸でベッドに横たわるテッシ。
彼女のなかから湧き出てくる“描きたいという情熱”の激しさに引き込まれていくテッシなの。
やがて二人は結ばれる・・・
ところが、才能をテッシに越され、すでに自分が過去のものになってしまったことを知る父は、娘のことをきっかけとして、テッシへの嫉妬に火がついてしまったのか・・
娘がいかにテッシを好きだと言ってもだ、父は家父長として男を許さないと怒る。
父はテッシを娘にたいする強姦の罪で訴えるんです。
それが、歴史上初の強姦裁判として記録が残ることになるんですね。
多くの女性芸術家が、男社会の中で激しく格闘しながら世にでてくるときスキャンダルまみれになることがあったように、その先鞭として、アルテミシアもスキャンダルにまみれ、世間の好奇にさっらされボロボロに傷ついてしまった。
でも、そのボロボロもまた創作のエネルギーとなっていくんですよね。
さて裁判の行方は、そして二人は? ここからはヒ・ミ・ツ。
実際にあった実話ですのでとても興味深いです。
親子といえど同じ道を目指すライバル同士でもあるアルテミシアと父親、彼らの画家として業の深さに目眩をおこしそうだわ。
その父子のなかに巻き込まれる才能豊かなテッシ。
時代の中で、時代の権力者におもねると同時に、時代の一歩先行く感覚とのバランスにひきさかれそうになる芸術家の苦悩も浮かび上がってくるのね。
3人の芸術家たちの緊張関係が名優同士だけに完璧に魅せます。
父を演じるミシェル・セロー。風格ある存在感ですね。
そして嬉しいのがテッシを演じているミキ・マノイロヴィッチ。
旧ユーゴ出身の名優さん、エミール・クストリッツァ監督の「アンダーグラウンド」で強烈でしたでしょう。その後観た「白猫黒猫」もエネルギー全開。
ところがオゾン監督の「クリミナル・ラヴァーズ」では少年愛の山小屋の男役で哀しかった。
「運命の傷痕」はみのがしてしまったのだけど9月26日発売ということで楽しみ楽しみ。
ミキ・マノイロヴィッチ、「アルテミシア」では芸術家として、また男として人間としての深みがしっとり感じられたわ。
そうそう、カラヴァッジオ好きな方もこの映画、要注目ですね。
←これがカラヴァッジオが描いた「ホロフェルネスの首を斬るユディト 」
これに対してアルテミシアが言う批評がすごいの。「まるで包丁でなにか切ってるみたい」(言いえて妙^^;)
アルテミシアは初期はかなりな影響をカラヴァッジオの絵から受けてるんですよ。にもかかわらずこう言い切る自信が半端じゃないでしょう。
←それに対し、実際、彼女は「ユディットとホロフェルネス」という同様の絵を描いてます。
鬼気迫る迫力と生々しさ(@@)
おっと、アルテミシアは裁判のあとフィレンツェやイギリスに行き、肖像画家としてたいそうな成功をおさめたんです。
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コメント
bettyさ~ん、カラヴァッジオとアルテミシアの画の対比が
いいですよぉ~。
やはり、女の事は女に描かせよ。でしょうか。
彼女の「ユディットとホロフェルネス」からは
女はヤル時には、とことんヤルのよ!という気迫がひしひしと
伝わってきます。
いや~この映画、ホント面白そうですネ!
レンタル屋さんへ行って探してみます。
投稿: ちゃろ | 2006年8月15日 (火) 14時52分
ちゃろさん
同じものを描いてどうしてここまで、気迫が違うかって、すごく面白いですよね。
ヤル気の問題でしたか~(笑)
この映画、DVD欲しいぐらい気に入ってます。
この時代を映画にしたもので、海辺の明るい風景がでてくるのは珍しいと思いません?なんかとっても気に入りました。
投稿: betty | 2006年8月16日 (水) 12時52分
言われてみれば、そうですよねぇ。
この時代を映画にしたもので、海辺の風景があるって・・・。
時代劇って、だいたいがコスプレ中心になっちゃいますから~(笑)
投稿: ちゃろ | 2006年8月16日 (水) 17時14分
これ、凄く気持ちわかりますよね。
女として生きていると、強弱は違っても、こう言うもどかしさみたいなの感じます。男の人にもあるのでしょうか?あの強烈な『描きたい!!』という気持ちを、「なんで、描かせてくれないの!」という不満ではなく、純粋に描くことへ向かって、突き進んだアルテミシアは本当に凄いし、尊敬できる女性です。本当に何かを「やりたい!」と思ったら、不満なんて感じている暇ないんでしょうね。不満があるうちは、本気じゃないということなんですね。
投稿: taba | 2006年8月28日 (月) 07時27分